入院生活

■手術の連絡

 私の自宅から病院までは、車で2~3時間の距離でした。病院の近くに住んで移植の順番を待つ患者さんもいるようでしたが、私は自宅で過ごしました。

 順番が近くなると、「移植コーディネーター」さんから連絡がありました。次に連絡があったときには、即入院 して手術になると思っていたのですが、そうはなりませんでした。入院して手術にならなかったこともありました。

 順番が来た時点では、まだ不確定要素が多いので、1回目で手術になることはそれほど多くないとのことでした。

 私の場合は、4回目でようやく手術になりました。

 

■準備物

 事前に病院からリストをもらえました。術後にICU(集中治療室)で使う日用品が中心です。付添がいてくれる場合は、入院してからでも揃えられるかも知れませんが、私の家族によると、手術直前後は、手続きや連絡などで余裕はなかったとのことでした。

 できるものから、事前に準備しておくに越したことはなさそうです。

 

■手術から退院までの流れ

 私は、入院の翌日に手術でした。全身麻酔だったので、手術の記憶はありません。目が覚めたのは手術から2日後のICUだったと思います。

 病院からの入院計画書は、以下のような感じでした。

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ICU(約2週間)

 一般病棟 個室(約1~2週間)

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 〃 相部屋(約3~5週間)

退 院

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 呼吸器外科は、前倒し気味で退院できたのですが、血糖値が高かったので、経過を見るために呼吸器外科から糖尿病内科に移って入院になりました。

 

■入院中の自分に起きたこと

・ICU 

 夢の中で、黒闇に吸い込まれそうになり、必死に這い上がっては引き込まれ、また這い上がっては引き込まれ、、を何度も何度も繰り返しました。今思い出しても、あれ以上の苦しい夢は見たことがないです。

 目が覚めると、どこか分からず、喉は人工呼吸器(気管挿管)で塞がれて、声が出せない状態でしたが、直感的に「助かった!」と思いました。

 

 片肺移植だったおかげか、反対側の手が少し使えたのは幸いでしたが、身体は驚くほど動きませんでした。痛みと苦しみの中、ほぼ全介助状態からのスタートでした。頻繁にモニターからの警告音が響く中、常に天井を見ているしかないので、自分がどこでどんな状態なのか分からず、とにかく不安でした。

 

 痛み止めなどの薬の影響で、天井が歪んで蛇になったり、森のこびとが出てきたり、貴重な体験をいろいろしましたが、数日でなくなりました。

 幻覚以外では、頻脈発作、不眠、顎関節の不具合、悪夢、発熱、聴覚過敏など、悩まされてばかりでしたが、その都度応えてくれるスタッフがいてくれたおかげで乗り切れたと思います。

 ICUでの時間は、これまでの人生で最も濃密な2週間でした。

 

・一般病棟(個室→相部屋)

 ICUから一般病棟の個室へは、都会の喧騒を離れて田舎に来たような感じでした。

 このまま静かにいられるかと思ったのですが、現実は甘くありませんでした。最も苦しめられたのが、これまでの人生で経験したことのない、ひどい便秘でした。

 腹は痛いわ苦しわ、便を力めば持病の痔が悪化するわで、額に変な脂汗を浮かべながら、病室内をうろうろする日が、2~3日続きました。

 ICUで下剤を勧められたときに、素直に飲んでいれば良かったです…。

 

 便秘が解消して、やっと病室に馴染んだ数日後には、相部屋に移ることになりました。

 次に悩まされたのが、夜になると耳栓をしていても聴こえてくる他の患者さんのいびきでした。

 ICUにいたときから、聴覚過敏になっていたこともあり、周囲の音が気になって、朝まで眠れないことが当たり前のような状態でした。頻脈発作が時々起きるなど、気が休まらない日々が続きました。

 

 体力は、リハビリの効果もあってか、そのような状態でも回復していきました。病院の売店に一人で買い物に行ったり、外出許可をもらって病院の外を歩けるようになったときの感動は、健康な人には味わえるものではないと思います。

 

■患者としてのアドバイス

 私は、手術直後から数日間、人工呼吸器で呼吸を管理された状態の時が、最も苦しかったです。

 機械から有無を言わせず空気を出し入れされ、口の中は砂漠のように乾燥するのに、唾液は喉の奥に侵入してきて苦しいですし、正直なところ何度か泣きました。

 しかし、これを乗り越えないと、せっかく移植してもらった肺がしぼんでしまうとのことでしたので、今が人生で一番の頑張りどころと思って、乗り越えるしかありません。

 

 コツは口ではなく、横隔膜を意識した大きな腹式呼吸をすることです。機械の動きに逆らわず、少し大げさに呼吸を繰り返しているうちに、だんだんとリズムが掴めてきます。

 なお、口の中に薬(ワセリン)を塗ってもらうと、口の渇きが少しラクになったのですが、機械呼吸の最中は喋れないので筆談でお願いするしかないです。

 

 術後間もない頃は、自分では寝返りも打てません。

 排泄や入浴など、ほぼ全介助です。“まな板の上の鯉”の状態ですから、心身ともに余計な力は抜いて、流れに身を任せたほうがうまく行くと思います。

 一方でリハビリは、受け身にならずに、自分が動けば何でもリハビリになるくらいの気持ちでいてください。そして、休むときはしっかり休んでください。眠れないときは、目を閉じているだけでも効果があります。

 手術前と違い、基本的に体調はだんだんと良くなるはずです。小さくても、実現可能で具体的な目標をたくさん立て、更新していくことで自信につなげやすいと思います。

 

 入院中は、うまくいくことのほうが少ないです。どうしようもなく不安になったり、気に入らないスタッフさん(ごめんなさい)がいたりもすると思います。

 そんなときに私は、一番つらかったときのことを思い出し、それに比べればマシだと自分に言い聞かせて、心を落ち着かせるようにしていました。

 また、不安なときこそ、しっかりお礼を言うようにしたほうが良いと思います。それだけで救われることがありますので。