おわりに

 私がまだ、臓器移植の待機期間中だった頃、NHKの対談番組に、元プロ野球選手の長嶋茂雄さんがゲスト出演していたときのこと…、

 

 番組の終盤、司会の有働アナウンサーから、“もう一度してみたいこと”を聞かれた長嶋さんは、「走ってみたい」と答えました。有働さんは少し戸惑った様子でした。

 彼は当時79歳。脳梗塞の後遺症で、半身に麻痺の残る身体でした。おそらく、叶わない望みであることは承知の上で答えたと思います。私は、自分を重ね合わせて、涙が出ました。

 

 …そして、手術を経て今。

 私の望みは「走りたい」から「もっと走りたい」に変わっています。

 

 病気になったことは不幸だったかも知れませんが、死の淵まで行ったおかげで、小さなことに幸せを感じられるようになりました。また、少し元気な姿を見せるだけで喜んでもらえるのも、病人の特権と言えるかも知れません。

 

 私は、臓器移植を勧めるつもりはありませんし、前向きになれと言うつもりもないのですが、もしも、苦しんでいた頃の自分に今会ったら、ひと言「お前、どうやら大丈夫らしいぞ」と声を掛けてあげたいです。

 

 (2019.10)